はじめに
現代の日本全国の地方自治体では、少子高齢化が進んでいる中で、高齢者介護の問題は大きな社会課題となっています。介護現場は、未だにアナログな仕組みに頼るケースが多いのが現状です。また、業界的に慢性的な職員の人手不足が起きています。今回の記事では、こうした社会課題を解決するために、茨城県大子町で先駆的に取り組まれているIT介護の事例を取り上げてみたいと思います。
茨城県大子町のITを活用した介護の取り組み
茨城円大子町は、茨城県最北西部にあり、北は福島県、西は栃木県に接する県際地域に位置し、県土の約20分の1を占めています。町の約80%は八溝山系と阿武隈山系からなる山岳地で、山あいから数多くの中小河川が流れ出し、町の中央部を縦断する久慈川に注いでいます。自然豊かな地域には、人口約15,000人が居住し、高齢化率は45%に達しています。
今回のテーマであるIT介護を大子町が推進する契機となったのは「第8期大子町高齢者福祉計画及び介護保険事業計画(令和3年(2021年)3月)」において、計画策定の際に実施した町内の介護事業所に対するアンケートの結果,多くの介護事業所が人材不足等の問題を抱えていることが明らかになったことが挙げられます。
大子町では、少子高齢化が加速していく中で,課題解決するためにはICTを活用した介護事業所のDX化の推進が必要であると考えられました。そこで、経済産業省関東経済産業局主催の「自治体×ヘルステックベンチャー共創プログラム」を通じて,ベンチャー企業6社が選定され、IT介護の取り組みが推進されました。計画書では、介護職員のサービスの質の向上や業務効率化に向けたICT機器の導入支援や、在宅福祉サービスとして高齢者の見守りのためにICTを活用するという記述がありました。大子町議会令和3年(2021年)9月定例会09月13日-02号において、鈴木大介福祉課長からの答弁では「介護現場におけるITやIoTの活用につきましては、それまで手作業で入力をしておりました各種記録の自動化や、介護スタッフ同士での利用者情報のリアルタイムでの共有、AIを使っての施設入所者の見守りなどが可能となっております。これらを活用することにより、今後、介護スタッフの業務負担軽減が図れると思っております。」と述べられていました。「第6次大子町総合計画(令和2年(2020年))」の第1章では、高齢者が生き生きと暮らせる環境づくりを推進するために、ICTを活用した認知高齢者の見守り体制の充実に努めるという記述もありました。
これらの協議を踏まえ、大子町のIT介護の取り組みは具体的に、2つ行われました。1つ目は、介護ベンチャーとの連携による会議事業所の生産性向上に向けた取り組みです。介護ベンチャー6社と支援会社と町が連携して、介護事業所の業務課題の分析やソリューション導入支援を行うことで、介護事業所の生産性向上を図り、事業継続性を高めていくことを目指して取り組まれました。
2つ目は、ICTを活用した高齢者の見守りサービスの実証実験です。町では、独居老人が増加傾向にあり、見守り支援を必要とする高齢者が多く居住されています。その課題を解決するために、3社のITを活用した新たな見守りソリューションの実証実験を行いました。高齢化率が45%に達している大子町の挑戦的な取り組みは、日本全国で同様の課題を抱えている地方自治体にとって、とても参考になる事例となっています。
他の地域での類似事例としては、東京都八王子市ではアプリ制作会社と連携して介護予防のための「脳にいいアプリ」が開発された事例もあります。アプリを利用すると健康ポイントが発行され、市内の地元商店でポイント利用することができる仕組みとなっています。
まとめ
日本全国の自治体は、少子高齢化が大きな社会課題となっており、特に介護現場は人手不足も重なっています。大子町のように、介護現場をICT化することで効率的に働きやすい環境を作ることは、介護現場の質の向上に繋がっていく取り組みといえるでしょう。
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執筆者 平峯 佑志 Yushi Hiramine
スポーツ&ヘルスケア関連の事業会社を創業メンバーとして起業、新規事業立ち上げ/経営企画/WEBマーケティング/法人営業・自治体営業/知的財産管理等の業務に従事。スポーツ専門研究機関のシンクタンクでのPM業務を経てグローカルにジョイン。
グローカルに参画後は、健康管理システムのソリューション営業の型化/営業支援体制の構築支援、自治体向けの情報プラットフォームの営業支援/PM業務、公募調査ツール「G-Finder」の企画開発業務に従事
出典:
<大子町「第6次大子町総合計画」>
<大子町「田舎でIT介護!~高齢化率45%の町の挑戦~」>
<第8期大子町介護保険事業計画>
<経済産業省『ヘルスケアイノベーション創出に向けて ~“自治体×ベンチャー”等の連携による 超高齢社会の地域課題解決~』>
<経済産業省関東経済産業局「自治体×ヘルスケアベンチャーによる地域課題解決を促進します」>