はじめに
近年、農業は急速に進化するデジタル技術によって新たな局面を迎えています。この進化を受けて注目を集めているのが「スマート農業」です。スマート農業は、農業の人手・担い手不足が叫ばれる中で、最新のデジタルテクノロジーやIoT(Internet of Things)を活用して効率的に農業を営む取り組みのことです。日本の地方自治体の中にはスマート農業の重要性を認識し、その導入や支援を通じて生産性の向上や地方創生を目指す自治体も現れています。本ジャーナルでも、岐阜県などの取り組みについて紹介してきました。今回は北海道岩見沢市の事例について、焦点を当てていきたいと思います。
岩見沢市の取り組み
岩見沢市は北海道中部に位置する自治体で、令和5年(2023年)7月時点で約76,000人の人口を抱えています。列車で札幌市まで約30分、新千歳空港まで約70分と、道内外を問わずアクセスしやすい好立地にあり、空知地方の行政・産業・教育文化などの中心地となっています。また、水稲栽培を中心とした農業が基幹産業となっており、小麦や玉ねぎ、花卉などの栽培も盛んです。
この岩見沢市では、スマート農業の推進に力を注いでいます。岩見沢市の農業の振興や持続的な発展に向けて、中長期的な基本方針や施策の方向性を示す「岩見沢市農業振興ビジョン」の中でも、農業所得の向上を目指すための施策の一つとして「スマート農業の加速化」が盛り込まれており、スマート農業の普及促進や産官学連携による最先端技術を活用した次世代型農業の推進などが明記されています。また、令和元年(2019年)に岩見沢市と北海道大学、NTTグループ(日本電信電話株式会社、東日本電信電話株式会社、株式会社NTTドコモ)と「スマート農業およびサステイナブルなスマートアグリシティの実現に向けた産官学連携協定」を締結しており、様々な取り組みが進められています。
続いて、具体的な取り組みについて見ていきたいと思います。岩見沢市のスマート農業の取り組みの中で、最も特徴的なのが「自動トラクター等の農機の遠隔監視制御による自動運転等の実現」として取り組む、ローカル5Gを利用したスマート農機の遠隔監視制御です。ローカル5Gとは、事業者が独自にエリア構築や運営することができる5G ネットワークのことで、超高速・多数同時接続といった 5G の特長を活かした利活用が期待されています。岩見沢市では令和2年(2020年)からNTTグループや関連団体などでつくるコンソーシアムで、総務省の「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」と農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト(ローカル5G)」の採択を受けて、ローカル5Gを活用した農機の遠隔監視制御による自動運転や、映像情報などのビッグデータの分析に基づく農作業の最適な作業時期提案などの実証実験に取り組みました。この実証の成果として、自動トラクターの遠隔制御の安全性確保が可能であること、キャリア5G・ローカル5Gで通信切り替えをした場合も問題無く安定走行できることなどが確認できました。
また令和5年からは、総務省の地域デジタル基盤活用推進事業(実証事業)の採択を受けて、先述のコンソーシアムで「土地利用型農業におけるローカル5G等無線技術を用いた自動走行トラクター実装モデルの高度化」事業を開始しました。「自動走行トラクターの完全自動走行に向けた監視手法の多様化」、「農機搭載システム機器の構成簡素化・安定性向上」、「ローコストネットワークによるエリア展開」の3つを実証することを目的に、取り組みが続いています。
まとめ
スマート農業は、地方自治体が主導する未来志向の取り組みであり、地域の農業を新たなステージに引き上げ、地方創生に資する可能性を秘めています。岩見沢市のようなローカル5Gを活用した取り組みだけでなく、ドローンや鳥獣害監視システムなど多岐にわたるスマート農業の取り組みが今後も日本中に広がっていくことが予測されます。
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執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
<岩見沢市HP:岩見沢市農業振興ビジョン>
<NTT東日本HP:最先端の農業ロボット技術と情報通信技術の活用による世界トップレベルのスマート農業およびサステイナブルなスマートアグリシティの実現に向けた産官学連携協定を締結>
<岩見沢市HP:自動トラクター等の農機の遠隔監視制御による自動運転等の実現>
<岩見沢市HP:産学官連携によるスマート農業の推進>