はじめに
近年、eスポーツ(エレクトロニックスポーツ)は急速に世界中で人気を集めており、その影響力はますます拡大しています。日本でもeスポーツの人気が高まりつつあり、特に若い世代を中心に広がりを見せています。こうした中、日本の地方自治体もeスポーツの活用に注目し、地域振興や交流の一環として積極的に取り組むケースが増えています。本ジャーナルでもこれまで、群馬県や神奈川県横須賀市の事例を紹介してきました。今回は東京都荒川区の取り組みについて見ていきます。
荒川区の取り組み
荒川区は東京23区の北東部に位置する自治体です。23区の中でも2番目に小さい面積の自治体ですが、南千住や日暮里駅周辺の再開発が進んだ高層ビルが立ち並ぶ近代的な街並みも、昔ながらのお店が軒を連ねる下町情緒あふれる商店街も有する、色々な表情を持った地域です。また金工や木工、染織などの職人が伝統的な技術を脈々と受け継ぎ守っている、歴史ある地域です。
この荒川区では令和3年(2021年)からeスポーツを使った高齢者のフレイル(虚弱・老衰)予防事業「あらかわ eスポーツパーク」を開始しました。荒川区は新型コロナウイルス感染拡大の影響で高齢者の外出機会が減ってしまい、高齢者の社会参加の機会が減少してしまったことで、認知機能や意欲の低下につながる恐れがあるとの懸念を持っていました。そこで、eスポーツを通じて社会参加することができる機会を設けて高齢者のフレイル予防を図ることや、ゲーム機の操作方法を学ぶことで離れて暮らす孫や近隣の子どもたちと一緒にゲームを楽しむことができるようになるなど、新たなコミュニケーションが生まれることを狙って事業が始まりました。
荒川老人福祉センターに、任天堂のゲームハード「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」を導入。コントローラーを持って、腕を振ることで直感的に操作できるボウリングゲームを採用して、普段ゲームに馴染みの無い高齢者でも簡単に楽しめて身体を動かす機会になるようなものにしました。同様にコントローラーを持って直感的に操作できるバドミントンのゲームや、世代を超えて人気のあるレースゲームである「マリオカート」もeスポーツパークに取り入れています。
また地域の幼稚園・小学校から子どももeスポーツパークに参加しており、高齢者と一緒にゲームをすることで多世代交流の機会を創出しています。さらに令和5年(2023年)には岩手県盛岡市の盛岡第一高校から、研究の実地調査として高校生3人が訪れました。参加している高齢者と交流し、地元だけでなく地域の枠を超えた多世代交流が生まれています。
まとめ
eスポーツは単なる娯楽だけでなく、地域社会においても様々な可能性を秘めたツールとして注目されています。荒川区の例では、老人福祉センターにゲーム機を導入しただけでフレイル予防・地域の枠を超えた多世代交流の機会が創出されており、施策の取り組み方によっては非常に始めやすいものになることが分かりました。今後、高齢化の進行がより一層深刻になっていく中で、eスポーツによるフレイル予防は多くの自治体で取り組みが進むことが期待されています。
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執筆者 グローカル編集部
地方創生コンサルティング、SaaS/レポートサービスを通して地域活性化を支援する、グローカル株式会社の編集部。地域活性化を目指す事例や自治体・地域企業/中小企業のDX化に向けた取り組み、国の交付金・補助金の活用例を調査・研究し、ジャーナルを執筆しています。
グローカルは、国内全体・海外に展開する地方発の事業をつくり、自立的・持続的に成長する地域経済づくりに貢献します。
出典:
<荒川区HP:「eスポーツ」で高齢者に新しい出会いを>
<荒川区荒川老人福祉センターHP:夏休み交流日!~あらかわeスポーツパーク~>
<荒川区荒川老人福祉センターHP:eスポーツパーク交流日~盛岡第一高校の皆さんと一緒に~>